株式会社インプランタイノベーションズ
複数のパイプラインが収益拡大に寄与し、中期経営計画は上方修正含みで進捗
植物遺伝子の受託解析業務は業界最大手
独立行政法人理化学研究所は研究者が自ら研究した様々な新しい知見や技術を、日常の暮らしや産業技術に役立てることを目指し、研究成果の迅速な普及と実用化に取り組める」ように理研ベンチャー制度を設けている。同社は、横浜研究所の中にある植物科学研究センターから創出された技術（遺伝子高速マッピングおよびFOX hunting systemの2つの基本技術）をベースに2003年に起業した。
これまで植物遺伝子の受託解析サービス事業に邁進してきたことが功を奏し、今では業界トップの座を占めるまでに成長、さらにはここから派生する複数の事業もここにきて大きく花を咲かせ始めている。
今回は、�盧�代表取締役社長に同社の現在の取組みや今後の事業展開についてお聞きした。
【会社概要】
| 企業名 | 株式会社インプランタイノベーションズ |
| 所在地 | 神奈川県横浜市鶴見区小野町75-1 リーディングベンチャープラザ |
| 代表者名 | 高根 健一 |
| 事業概要 | 植物遺伝子の受託解析サービス、植物遺伝子特許関連ビジネス など |
| URL | http://www.inplanta.jp/ |
（１）受託解析サービスは業界トップ
Question 1：
御社が現在手掛けておられる業務について伺いたいのですが？
基本的には「植物の遺伝子組換えの技術を使って新しい植物を作ろう」というところに重きを置いた事業戦略を組んでいます。事業の基盤となるのが以下の２つです。
１つ目が受託解析サービスです。主なユーザーは、大学や公的研究機関ですが、更には民間企業の研究機関からの受託も見込めるので、こうした分野にも営業を行っています。
２つ目は受託解析サービスから得られる「技術や情報」を活かした事業です。受託解析サービスを行っていますと、どういう研究機関がどういう技術開発を進めているのか、といった最新の技術や情報が把握できます。また、どういう企業がどのようなニーズを求めているのか、といった情報を得ることができます。例えば、技術開発に取り組んでいる企業に対しては技術のブラッシュアップを図るために共同開発の提案を行ったり、新しいビジネスを構築しようとしている企業に対してはこういった新しい技術（シーズ）がありますと提案することで、シーズをニーズに変えるようなビジネス展開を図っています。つまり、２つ目の事業は、ある技術なり情報を、別な企業に渡していくという「バトンゾーン的なビジネス展開」と呼んでいます。
Question 2：
御社の生い立ちともいえる「理研ベンチャー」の強みを活かして、最新の技術に関する情報はいろいろ入ってくると思われますが？
高根社長
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そうですね、理化学研究所の技術だけでなく、様々な公的研究機関や大学などからの受託解析サービスを行っているが故に、最新の情報が入ってきます。また最近は、世界的にアグリビジネスへの関心が高まる中で、企業にとっては、植物を対象とした事業ニーズがこれまで以上に高まってきています。一方、企業のニーズを満たすためにはどのような技術が必要なのか、などといった目利き的な分野も得意としています。 2006年からのクミアイ化学工業株式会社様との業務提携は当社のこうした取組みが高く評価された一つの証しと考えています。 |
Question 3：
受託解析サービスの収益構造は理解できますが、後者の「バトンゾーン的なビジネス」は情報提供に対する報酬と考えればいいのですか？？
最新の技術はいわば原石のようなもので、それをブラッシュアップすることが必要になってきます。原石を基本特許として位置付けると、それが実用化できるまでレベルを上げていくことで、新たな知財が生まれることになり、この新しい知財に当社の名前が出てくるようになります。つまり、理研を代表するような研究機関が有する原石という基本特許をもとに、当社と共同開発を行った企業との三者が一体となって新たな（応用）特許を出願することに繋がります。そうなった時点で、当社は大企業に事業売却するとか、実施権などの知財収入に結び付けるという収益構造を描いています。
Question 4：
受託解析サービスを手掛けている同業他社はありますか？
植物分野に限っていいますと同業他社は存在しません。受託解析の対象範囲を動物まで広げますと、複数社の大手企業が挙げられますが、現状、これら企業は植物分野の受託解析は行っていません。
大手企業が参入しないのは市場規模が小さいからではないかと指摘されますが、ビジネスとして成立されるためのノウハウと高い専門性が要求されるからだと当社では判断しています。過去においては、ある大手企業が当社の行っているシロイヌナズナの形質転換サービスの分野に進出しようとして、学会発表、セミナー開催などで大々的に発表した事例があります。しばらくして、ある大学の先生が、同様の依頼をその企業と当社に発注したところ、その企業では対応できなかったのに対し、当社は顧客の要望に十分応えることができた、ということを経験しています。この一件が契機となり、植物分野における当社の受託解析サービスの知名度が上がりました。一方、大手企業はその後、この分野から撤退しています。これまでの経緯を踏まえると、大手企業が今後、この分野に新規参入してくるということは考えにくいです。
Question 5：
研究機関等からの委託業務分野は御社が独占的な位置を占めているわけですね。しかし、先ほどのお話では市場規模は小さいとの見方があることですが、そうだとすればこの分野での成長余力は小さいともいえなくはありませんか？
今後の市場の見通しは如何ですか？
この20年間、国の方針として植物機能の解明のために遺伝子の機能解析や新規の機能を付加した植物の基礎的開発に研究予算を投じてきました。その投資に対する成果を、「具体的な実用植物の開発」という形で、近年、研究者は求められるようになってきました。しかしながら、「基礎的な研究」と「具体的な実用植物の開発」には大きな隔たりがあり、後者の開発には個人だけでは限界があると研究者が感じ始めています。また、昨今では国の競合的研究資金の交付により予算が大型化した反面、成果達成度の期間厳密性が問われるようになっています。経済産業省や農林水産省が推し進める研究開発がそれに相当しますが、それらについても、これまでの研究者個人による開発では達成は難しいと、政府も感じています。従いまして、大学や公的研究機関からの受託解析市場は、この先３、４年は拡大していくと考えています。
一方、企業の状況です。1980年代に大手企業がこぞってアグリバイオビジネスへ参入を試みましたが、バブルの崩壊と共に、ビジネスとして十分に構築できていなかったため、多くの会社でその部門を縮小、もしくは撤退しました。それらの企業は特許の出願状況から、国内には65社程度存在します。それが昨今の国際的な食糧不足に伴う原価高騰から、国内企業でも再びアグリバイオ部門を見直そうという動きが見受けられます。加えて、環境・エネルギー分野は非常に大きな市場に成長しており、80年当時では考えられなかった植物開発とビジネス化が進んでいます。その分野はある企業にとっては研究開発が必要不可欠となっている状況も見受けられます。しかしながら、それらの企業では、過去の経緯から植物開発部門が弱体化しており、単独での開発は非常に難しい状況にあります。
そういった意味で、この分野の売上げはまだまだ伸びていく余地が大きいです。
（２）ミラクリン事業の展開に期待
Question 6：
受託解析サービスや情報提供などのバトンゾーン事業は御社にとっては飛躍するために欠かせない根幹的なビジネスといえます。こうした取組みの裏付けがあって、ライセンスビジネスなどによって飛躍を遂げるような事業に繋がると思われますが、具体的な事例はミラクリン事業でしょうか？
ミラクリン事業を理解してもらうために、まずこれまでの取組みを説明しましょう。
西アフリカ原産のミラクルフルーツは、酸味のあるものを食べる前に暫く口に入れておくと、ちょうどレモン汁がレモネードのような味になるように、酸味が甘く感じるフルーツで、まさに“ミラクル”です。このフルーツの中に、「ミラクリン」という酸味を甘く感じさせる機能を有しているたんぱく質があります。ここから推察されるかもしれませんが、糖分控えめの方々やメタボリック予防のために「ミラクリン」を抽出した機能性食品などへの応用が期待できます。しかしながら、ミラクルフルーツは、1粒わずか１グラム程度で、ほとんどが種で、その回りにごく僅かの果肉があるという果物です。国内では神奈川県の葉山をはじめ、数件の農家でしか栽培されていません。
当社はこの成分に注目し、筑波大学、大手飲料メーカーとの３者共同研究によってミラクリンを生産する組換え植物の開発を2004年に成功しました。続く2006年には、当社と筑波大学とで共同提案した「組換えトマトを活用したミラクリンの製造開発技術」が経済産業省の「植物機能を活用した高度モノ作り基盤技術開発/植物利用高付加価値物質製造基盤技術開発」に採択され、工業規模での生産に向けての研究開発を行っています。ここから生まれてくる知財とか実用化に向けてのライセンス等は、当社がハンドリングできます。
「ミラクルトマト」1グラム当たりのミラクリンの含量は、今はミラクルフルーツに比べて3分の2と少ないですが、1個当たりでみたミラクリンの含量の絶対量は、トマトは１個200〜300グラムありますから多いです。単純にいえば、トマトを一口で４分の１齧るとすれば50グラムくらいにはなりますから、その中に含まれるミラクリンはミラクルフルーツ33粒程度を一気に口に入れているのに相当しますので、圧倒的な甘さを感じることになります。ミラクルトマトの栽培によって、ミラクリンの大量生産が可能になるわけですが、当社ではこのトマトを「植物工場」で栽培する計画です。
現在、経済産業省に採択された基盤技術開発を通じて、�．潺薀�ルトマトからミラクリンを抽出する技術開発、�▲潺薀�リンが豊富に出ているトマトを食べても安全だというデータの採取、などを行っています。そのうち�△離如璽燭蓮�近々、日本国内の食品安全委員会に提出する計画です。ここで安全性が評価されますが、日本国内ではデータを提出しても許認可が下りるのには１〜2年かかるのではないかと考えています。
Question 7：
ということは、事業化までに今しばらく時間がかかるということですか？
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ミラクリン“関連”事業という点では既に事業化が進んでいます。 先ほどいいました葉山の栽培農家様から独占的にミラクルフルーツを仕入れて、大手のフルーツパーラー店などに卸しています。小売価格は1粒数百円という高級ブランドが定着しています。 ところで、味覚が変わるのに必要なミラクリンの量は、1粒は必要ありません。協力会社に依頼して、果肉を乾燥させてタブレット状にしたものが出来上がっています。これによって、生のミラクルフルーツの数倍の量を提供することが可能になりましたが、それでも数量面では限界があります。むしろここでの目的は、「ミラクルフルーツ」の知名度をもっと世に広めたいからです。これが浸透すれば、本業であるミラクリン事業は円滑に立ち上がると判断していますので、ここまでは布石的な事業として捉えています。 |
ミラクルフルーツ タブレット |
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当社がミラクリン事業を直接行うとしたら、規制をクリアしなければならない事項があるので、ご指摘の通りもう少し時間がかかります。しかし、この事業に以前から注目していた企業が当社のここまでの取組みに対して正直驚きを持って、高く評価していただいています。 例えば、大手医薬品メーカーは安全性のクリアと大量の供給体制ができることを前提に仕入れたいという意向を表明していただいています。それ以外にも複数の大手企業から引き合いがありますので、こうした中から、早ければ今期(09年8月期)にもミラクリン事業が収益に寄与し始めると期待しています。 それ以上に、米国市場への参入は日本よりも早く事業が立ち上がる可能性を秘めています。 |
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Question 8：
米国市場を注目しているのはなぜですか？
具体的なビジネススキームは今後詰めるべきことが多いですが、以下の点で米国市場に注目しています。
まず、米国市場の規制が日本と比べてより柔軟性に富んでいる点です。
米国の場合、「データを取った」、「ＦＤＡ（アメリカ食品医薬品局）に申請した」という実績ベースで市場に流すことができます。先ほど述べました通り、日本国内ではデータを提出しても許認可が下りるのには１〜2年かかることと比較すると、ＦＤＡに申請したなら後は企業責任で実施できる米国市場の方が機動的にビジネスを行える点で魅力的です。
米国では、生食トマトの市場だけでも2,000億円に達する市場規模の大きさが挙げられます。また、米国では遺伝子組換えに対するアレルギーが日本に比べて小さいことや、ダイエット志向とか健康志向の高さを背景に、ミラクルトマトは市場ニーズと合致している、といったことなどが挙げられます。
当社の経営基盤の確立なども含めて総合的に勘案して、米国市場への参入のタイミングを計っているところです。
（３）昨年に想定した中期経営計画は上方修正の可能性大
Question 9：
ミラクリン事業以外のパイプラインはなにかありますか？
ミラクリン事業に次ぐビジネスとして第1に環境・エネルギー関連を考えています。
具体的にはバイオ・ディーゼル分野です。この分野の対象植物は既に決まっていて、実は事業そのものもスタートしております。まだ、詳細は明らかにできませんが、売り込み先企業への打診が進み始めています。ビジネスモデルは、ミラクリン事業と同様に、大量に生産できるような新しい植物栽培技術に興味を持っている企業などに事業の売却とかライセンス供与を行うことで、収益を稼いでいく方針です。2番目が環境・食糧分野、3番目が高価な植物成分を植物工場で大量に生産できる技術開発を進めていきます。
以上の全てにおいて、実は事業提携先候補が上がっていますので、事業化はこの順番通り進むとは限りません。場合によっては1番目よりも２番目や3番目が先に出るということも充分考えられます。時期も早ければ08年11月には方向性がみえてくる案件がでてきそうです。
Question 10：
複数のパイプラインをお持ちなのは魅力的ですね。最後に、今後一段と飛躍するために現在、もっとも重視している取組みについてお聞かせ下さい。
当社の事業領域としての「遺伝子組換え」は避けては通れませんし、当然、避ける積りもない技術です。この技術を事業化させていくには日本国内で適用される国の基準、ルール、法律がありますので、それに則って開発していくためにクリアしなければならない、最後のハードルとなる部分のデータを取るための施設の調達と人を採用する資金が必要です。調達した資金はこれに充当したいと考えています。
これがクリアできれば、当社の成長力が加速することになります。具体的なターゲットとなる内容としては、今までの延長線上での受託と製品開発の二つがあります。
受託ビジネスに関しては、公的研究機関だけでなく、企業からの要望が今急速に増えてきています。これまでは屋内での研究が中心でしたが、国の基準を満たした屋外施設で組換え植物の完全性評価についてのサービス提供を当社が行うわけです。
当然、組換え植物を屋外で栽培するには、一定の基準をクリアした施設が必要です。さらに、システムやヒトの確保が必要不可欠になってきます。施設の設置場所としては筑波大学の敷地内を予定しております。システムや大臣申請は筑波大学の先生方と打合わせ、つまり共同研究という形態で行っていきます。このように事業を立ち上げる準備は順調に進んでいます。この事業が立ち上がると、植物工場による製品開発にも転用でき、設備というハードウェアについては大手商社からの提案も受けています。
こうした施設を持っている企業は、大手企業2社が該当するとみられますが、これら企業に安全性評価を委託するかといえば、そうはならないとみています。というのも、それらの企業は自社開発のために施設を利用しており、システムやヒトまでを充実したサービスの提供ノウハウがないため、結果的にこのようなことができるのは当社しかないからです。
これに向けた資金調達はこれまでベンチャーキャピタル様と交渉してきて、おかげさまで複数社から出資を仰ぐことができました。
3年後には今回の施設立ち上げによる収益獲得、複数のパイプラインの事業化が相当進展していると確信しています。それにつれて、昨年に策定した中期経営計画の最終年度の目標は売上高6億円、経常利益1億円でしたが、今ではそれぞれ10億円、2億円程度に上方修正する公算が高くなっています。
御社のようなベンチャー企業が資金調達を実施できたのは、御社の事業性が高く評価されたからですね。
また、足元の08年8月期は黒字決算を達成したと伺い、さらに中期経営計画では上方修正の可能性も極めて高いことから、俗にいうバイオベンチャーにありがちな赤字体質の経営とは一線を画していることは特筆されます。停滞する日本経済に新たな息吹を是非、吹き込んでください。